ウシ胎児血清(FBS: Fetal Bovine Serum)とは?細胞培養における役割と注意点

はじめに

  • FBSの正式名称と定義

ウシ胎児血清(FBS: Fetal Bovine Serum)とは、牛の胎児から採取される血清のことです。FBSは、生命科学研究には欠かすことができない細胞培養において広く使用される添加剤の1つで、細胞の増殖や分化を促進するために必要な栄養素やホルモンが豊富に含まれています。

  • FBSが細胞培養で広く使用される理由

細胞培養における血清の効果は古くから知られており、入手のしやすさから主にウシ血清が用いられてきました。特に、成牛と比べて脂質や免疫グロブリン含量が低いこと、増殖促進因子含量が多いことから、現在細胞培養に用いられる血清のほとんどはウシ胎児血清であるFBSが広く使用される。FBSは、厳格な品質管理のもとで製造されいるため、高い品質と安定性が保証されており、細胞培養において最適な成分が含まれるように調整されています。また、FBSは長期間保存が可能であり、実験結果の再現性を高めることができます。

FBSの産地と種類

  • FBSの主な産地

FBSは世界中で収集されており、主な収集地はアメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、中央アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパに集中しています。1

  • 色々な処理済FBSについて

FBSにはユーザーの要求に応じて様々な品質対応がされています。例えば、原産国の特定、主要成分の含有量試験の実施、低エンドトキシン・低ヘモグロビン、ウイルス除去フィルター処理、γ線照射、単一ロットの量の拡大、といった様々な対応がなされた製品が販売されている。

処理の例処理方法・処理目的用いられる実験系
非働化(Heat inactivated)免疫系で作用する補体の不活化基本的な細胞実験や免疫学の試験
活性炭処理(Charcoal)ホルモンや成長因子の除去受容体研究やエストロゲン関連研究に有用
γ線処理(γ-irradiated)ウイルスの不活化ウイルスの混入が問題になる再生医療研究など
テトラサイクリンフリー(Tetracycline free)各社の基準以下のテトラサイクリン量テトラサイクリンやドキシサイクリンの有無で遺伝子発現を調節するTet-On,Tet-offで使用される。
透析処理(Dialyzed)基準MWCO(膜を通して有効に拡散しない標準的分子の最小平均分子量)以下の低分子を取り除く低分子物質の影響を考慮する必要がある実験系
エクソソーム除去限外濾過法などによりエクソソーム除去してある。ウシ由来miRNAが検出限界以下である血清由来のエクソソーム(核酸やタンパク質)の影響を考慮する実験系
幹細胞、ES細胞試験済み(Stem Cell Screened)幹細胞を継代培養し、多能性を維持したまま効率よく増殖すると確認済み幹細胞研究を実施する際の時間とコスト削減に寄与
IgG除去0.04 µmフィルターなどを用いた濾過を行なっている。一般的なFBSは150 µg/mLのIgGを含んでいるのに対してIgG濃度を低く設定している。抗体産生や免疫測定での細胞培養に使用
脂質除去フュームドシリカ沈殿方により血清中に含有される脂質を除去している。細胞内のステロール量を調節する必要がある実験系
鉄イオン添加、BSEフリー1%クエン酸第二鉄滅菌溶液を0.246%(v/v)添加し、混合。鉄イオンと結合したトランスフェリン濃度を整理的な濃度に調整。
クロマトグラフィーFBS中のγ-グロブリンやアルブミンなどの特定のタンパク質を除去する細胞への影響や干渉を低減する
カリウム除去FBS中のカリウムイオン(K+)の濃度を低下させる神経細胞や筋細胞などの興奮性細胞の培養に適した培地環境を作る
カルシウム除去FBS中のカルシウムイオン(Ca2+)の濃度を低下させる細胞接着や分化などに影響を与えるカルシウム依存性現象を制御する
エンドトキシン除去FBS中のエンドトキシン(グラム陰性菌由来のリポ多糖)の量を低減させる細胞への毒性や炎症反応を抑える

FBSの使用方法

  • ロットチェックの必要性

FBSは血液から採取されるため、ロットや個体差により含有量が異なります。そのため、ロットチェックはFBSの品質を確認するために重要です。ロットチェックを行うことで、実験結果の再現性を高めることができます。

  • 非働化処理について

非働化処理とは、FBS中に含まれる補体を熱で不活化することで、培養中の補体活性化による細胞傷害を防ぐ目的で行われます。非働化処理は通常「56℃で30分」の処理時間で行われます。

結論

FBSは細胞培養に欠かせない添加剤であり、その品質と使用方法は実験結果に大きな影響を与えます。FBSの種類や使用方法によって、実験結果が異なる可能性があるため、注意が必要です。
したがって、FBSの選択と使用方法は、細胞培養の成功にとって重要な要素であるため、これらの点を考慮に入れ、最適なFBSを選択し、適切な使用方法で用いることが重要です。

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